禍福は糾える縄の如しとは

投稿者: | 2020年7月6日

中国前漢時代のお話。
武将A「まあ、きいてくれや」
武将B「どないしたんや」
武将A「先週の合戦、敵の軍勢は1,000人やゆうから…」
武将B「あんたとこ、10,000人の大部隊やから、余裕やん」
武将A「そうやねん。それやったらこっちは2000人ぐらいで充分や思うて出撃したんや」
武将B「ほう?」
武将A「そしたら、敵は次から次に出てきて、長江の真ん中で6,000人相手に大合戦や」
武将B「川の真ん中で6,000人対2,000人か。そら、きっついなぁ」
武将A「そやろ。相手は大将までの総力戦や。せやけど負けたらこっちは大将から打ち首やからな」
武将B「負けられへんな」
武将A「そうやねん。もうちょっと多めに出しといたらよかった、下手打ってしもたぁ、思うてな」
武将B「せやけど、あの日は…」
武将A「そう、合戦始まったら、すぐにものすっごい雨や」
武将B「もともと降りそうやったけどな」
武将A「それで、岸から見てたら長江の水かさがみるみる増えていくねん」
武将B「三峡ダムもやばいんとちゃうか」
武将A「それは時代が違うと思うけどな」
武将B「そうか?」
武将A「まあ強引に戻すけど、川に入ったうちの軍勢、みんな、うおーゆうて流されていきよんねん」
武将B「えらいこっちゃないか」
武将A「そう思うて、あわてて相手の方を見たらそっちもみんな流されててな」
武将B「大変な光景やな」
武将A「うちもみんな流されたけど、敵は大将以下全員流されて全滅や」
武将B「ということは…」
武将A「相手は全滅やけど、こっちは差し引き8,000人生き残って圧勝やった」
武将B「よかったやないか」
武将A「よし思うて、大将のとこに報告に行ったんや。”勝ちましたー”ゆうて」
武将B「そしたら褒美が」
武将A「いや、それがあかんかってん」
武将B「なんでやねん」
武将A「大将も長江の増水でみんな流されたのを知っててな。”おまえの手柄やない”っちゅうわけや」
武将B「そらそうやろな。そしたら、褒美も」
武将A「もらえると思たけど、あかんかった」

2人の話をきいていた司馬さんは、ぽつんと「人間の幸せと不幸は、良い時と悪い時が交互にくるものだ」と言いました。
武将たちは、そらそうやな、という顔で賢人の次の言葉を待ちました。
司馬さんは、すこしタメてから「それはまるでより合わせた1本の縄のようなものだなあ」と付け加えました。
それを聞いた2人の武将は、取ってつけたようなたとえ話に(司馬ちゃん、やっちゃったな)と思い、うつむいて黙りこみました。

原文:因禍爲福 成敗之轉 譬若糾纆(禍によりて福となす、成敗の転ずること、たとえれば糾えるぼくのごとし)
※「纆」は墨縄の意味