中国前漢時代のお話。
武将A「まあ、きいてくれや」
武将B「どないしたんや」
武将A「先週の合戦、敵の軍勢は1,000人やゆうから…」
武将B「あんたとこ、10,000人の大部隊やから、余裕やん」
武将A「そうやねん。それやったらこっちは2000人ぐらいで充分や思うて出撃したんや」
武将B「ほう?」
武将A「そしたら、敵は次から次に出てきて、長江の真ん中で6,000人相手に大合戦や」
武将B「川の真ん中で6,000人対2,000人か。そら、きっついなぁ」
武将A「そやろ。相手は大将までの総力戦や。せやけど負けたらこっちは大将から打ち首やからな」
武将B「負けられへんな」
武将A「そうやねん。もうちょっと多めに出しといたらよかった、下手打ってしもたぁ、思うてな」
武将B「せやけど、あの日は…」
武将A「そう、合戦始まったら、すぐにものすっごい雨や」
武将B「もともと降りそうやったけどな」
武将A「それで、岸から見てたら長江の水かさがみるみる増えていくねん」
武将B「三峡ダムもやばいんとちゃうか」
武将A「それは時代が違うと思うけどな」
武将B「そうか?」
武将A「まあ強引に戻すけど、川に入ったうちの軍勢、みんな、うおーゆうて流されていきよんねん」
武将B「えらいこっちゃないか」
武将A「そう思うて、あわてて相手の方を見たらそっちもみんな流されててな」
武将B「大変な光景やな」
武将A「うちもみんな流されたけど、敵は大将以下全員流されて全滅や」
武将B「ということは…」
武将A「相手は全滅やけど、こっちは差し引き8,000人生き残って圧勝やった」
武将B「よかったやないか」
武将A「よし思うて、大将のとこに報告に行ったんや。”勝ちましたー”ゆうて」
武将B「そしたら褒美が」
武将A「いや、それがあかんかってん」
武将B「なんでやねん」
武将A「大将も長江の増水でみんな流されたのを知っててな。”おまえの手柄やない”っちゅうわけや」
武将B「そらそうやろな。そしたら、褒美も」
武将A「もらえると思たけど、あかんかった」
2人の話をきいていた司馬さんは、ぽつんと「人間の幸せと不幸は、良い時と悪い時が交互にくるものだ」と言いました。
武将たちは、そらそうやな、という顔で賢人の次の言葉を待ちました。
司馬さんは、すこしタメてから「それはまるでより合わせた1本の縄のようなものだなあ」と付け加えました。
それを聞いた2人の武将は、取ってつけたようなたとえ話に(司馬ちゃん、やっちゃったな)と思い、うつむいて黙りこみました。
原文:因禍爲福 成敗之轉 譬若糾纆(禍によりて福となす、成敗の転ずること、たとえれば糾えるぼくのごとし)
※「纆」は墨縄の意味